育児・介護休業法の改正施行への備えは大丈夫?
2022年は育児休業は大きく変わります。4月に向けて腕ならし、10月が本番
改正「育児・介護休業法」が2022年4月1日施行を皮切りに、10月1日に「産後パパ育休」「育休の分割取得」「1歳以降の育休の柔軟化」等といった大きな変更が控えています。従業員視点で考えれば、基本的には有利になる改定なので良いのですが、会社側としては変更点をしっかりと抑えたうえで、必要な対応は粛々と行うことは当然、その変更をどのように自社に取り入れ、また変化に対応していくかが目下の課題になります。
実際にこの時期は、年度始に向けて就業規則の見直しに関するご支援の機会が非常に多いのですが、その際に育児・介護休業(とりわけ育児休業)の変更点について説明をクライアントには口を酸っぱくして行っています。実際に、中小企業の社長さんや人事担当の方は、制度の変更を熟知しているケースはまだ少ないというのが肌感覚としてはあります。
実務上必要なことは、「就業規則や内規の変更」「労使協定の作成」といった部分になりますが、その点は必要最低限抑えつつ、変化に自社がどのように対峙していくかがポイントになると考えています。
では、今回の変更に伴い必要な手続きを簡単に見ていきます。
〔事務面での手続き〕
- 就業規則の見直し
- 内規(育児・介護休業関連)見直し
- 労使協定の締結(引続き入社1年未満者を育児・介護休業等の対象外とする場合)
- 社内の育休を取得しやすい雇用環境整備
- 対象者への個別周知/意向確認体制の整備
なお、上記の「社内の育休を取得しやすい雇用環境整備」については、4月1日より、以下4つのいずれかの実施が求められています。
- 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施(少なくとも管理職以上)
- 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口等)
- 自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
- 自社の労働者への育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
このような体制や手続きを早急に整えることが労務管理上必要とされています。大企業の場合は、このあたりの手続き面は首尾よく、粛々と行うことが一般的ですが、中小零細企業の場合で、特に人事担当の専任者が不在の企業ではこの手の手続きも手付かずなケースは間々あります。
確かに、周りに育休に関連する従業員の有無は把握できていると思われるので、発生してから手を付けるのも一つの考え方ですが、今後採用活動に注力するような企業ではこの手の法的な福利厚生については確実に行うことが経営戦略上も推奨されます。
上記のような事務的な手続きについては、社労士等の外部専門家に依頼することになるかもしれないですが、厚労省が作成しているリーフレット等を一読したうえで専門家に相談すると効率的(低価格)に依頼することができると思いますので、育児・介護休業法の変更点についてこれからキャッチアップを図りたい方は是非ご覧ください。[リンク:(中小企業事業主向け)リーフレット「改正育児・介護休業法 対応はお済み)]
〔10月以降の変更点〕
今回話したいテーマは、10月以降の育休の変更点です。主な変更は、以下の内容です。
- 産後パパ育休(出生時育児休業)の創設(条件を満たせば、一部就業も可能)
- 育休の2回まで分割取得可能
- 1歳以降の育休(保育所がない場合等)の取得開始日の柔軟化で配偶者とのバトンタッチ可能(これまでは1歳の誕生日などの制約あり)
産後パパ育休や育休の分割取得といった点は画期的な制度になります。特に産後パパ育休では、一部就業も可能(労使協定等も必要)になるので、従前、育休も良いけど数週間会社を休むのは難しいという声に対応でき、さらに昨今ではリモートワークの環境も一般化しているため、取得の促進は広がると考えられます。一方で、リモートワークの環境や挑戦を行っていない企業にとっては引続きハードルが高いので、これを機に自社の仕事のあり方を柔軟に考えることも必要と示唆していると思います。正直、リモートワークを行える環境整備は以前に比べると、様々なツールが発展したお陰で相当スムーズに行えるようになっており、企業規模などに関係なく対応できるので食わず嫌いで避けるのは得策ではないでしょう。
あわせて、育休の分割取得や1歳以降の取得開始日の柔軟化に伴い、配偶者(これまでは主に妻)と交代で育児休業をとることも遙かに容易になります。
先日行った研修の資料から抜粋版を掲載するので、2枚目を見るとイメージが湧くと思います。
このような育児休業の大きな変更が控えていますが、最近では日本でも大企業を中心に男性の育休取得率は上昇しています(その中には眉唾物の1日だけ育休などの似非育休もたくさんあるのが実態ですが・・・)
確かに大企業では人員も多く育児休業を一人や二人の従業員がとっても体制に影響はないのが実態です。にもかかわらず、実質を伴う育児休業がまだまだ消極的なケースもあり、それはひとえに、代わりの従業員が多いため、昇格等の人事制度や社風の問題があります。言うは易しの典型で、この手の問題を解決するのは感情の問題に左右されるので非常に難しいのが実態です。
一方、中小零細企業の場合、昇格等の人事制度の問題と言うよりむしろ、会社の人員そのものが限られており、従業員が一人でも欠員すると影響が大きい点にある点が特徴です。
このように会社規模のよって抱える悩みは異なりますが、私見では、大企業の抱える大企業病(人事制度・社風)改革の方が困難であり、中小零細企業のように意思決定に時間を要しない組織の方が、今回の育児・介護休業法の改正施行に伴い対応するメリットが大きいと考えています。これを機に、職場を挙げてワークライフバランス、ワークシェア、デジタルを活用した働き方のあり方を徹底的に考え、人材戦略を機動的に見直すチャンスだと捉えています。大企業のように豊富な人員(余剰人員含め)を抱え、ネームバリューに頼った採用ができるわけではないからこそ、育児面でのサポート(制度のみならず、組織としてのバックアップ体制)を充実させ、それを採用時等にPRし、同時に今後増えていくことが容易に想像できる親等の介護面でも同様に働きやすい職場を作ることで、給与水準だけでなく総合的な働きやすい環境の整備を通じて、安定した会社生活とプライベートの両立を支援するハブになることで従業員から選ばれる企業になるチャンスがあると思います。
中小零細企業の場合は、良くも悪くもワンマン経営になりがちですが、今回のような一見、会社からすると従業員の権利が強まる改正は忌避する考え方もありますが、これを機に雇用環境の見直しを迅速に行い、従業員のモチベーション向上に向けて動き出す良いきっかけだと考えます。まずは就業規則等の事務的な見直しから始め、数回、従業員と話しながら自社に新しい風を吹かせてみてはいかがでしょうか!